別館第一倉庫

本館からロッキード裁判に関するものを移設しました。

ロッキード裁判を振り返る(下)

 3回目です。
 今日は法律の条文が出てきますが、裁判時以降今までの間に法律の改正が行われているものもあります。
 30年前の六法を持っていないので、多少の言い回しが変わった程度なら現行の条文を引用するつもりですが、ひょっとして大きな変更を見逃しているかもしれません。その時は遠慮なく教えてください。
 
     <ボーイングといえばロッキード事件って何だったの>

 上のブログで紹介されている「岸田コラム」が挙げている次の4つの疑問について、いずれも裁判を通して明らかにされていることばかりなので、このブログで簡単に答えを示すことにしたというのが前回でした。

(1)田中角栄が5億円を受領した物的証拠がなく、いつどこで受領したのかの証拠は受け渡したとする丸紅専務の証言だけ。

(2)総理大臣には航空会社に特定の飛行機を買わせる権限がない。

(3)アメリカ人の証人に行った嘱託尋問に対する田中角栄側の反対尋問が行われていない。

(4)嘱託尋問を行う法的根拠がはっきりしない。

 このうち、(1)と(2)については、前回取り上げたので、今日は、残りの(3)と(4)を取り上げます。

 まず、(3)の嘱託尋問に対する反対尋問が行われていない件についてです。
 確かに、憲法第37条にあるように、被告人には反対尋問権が認められていますが、それは法廷内の話です。
 この嘱託尋問は捜査段階の尋問なので、反対尋問がされていなくても、刑事訴訟法(以下、刑訴法)第321条で定められている要件を満たしていると裁判所が判断すれば、証拠として採用されます。

 以前、私はある事件のことで、警察で調書を取られたことがあります。刑訴法第321条1項の中の3号書面ですね。
 警察からいろいろ尋ねられ、それについて答えるわけですが、その間、警察官と私だけで、反対尋問をする人は誰もいませんでした。
 そうやって作成された調書が、裁判で証拠採用されたかどうかは知りませんが、もし、証拠として採用され、その内容について被告側が疑問を感じたら、私を証人申請して法廷の場に呼び出し、そこで質問を浴びせればいいわけです。
 被告側がそれをしなかったからといって、調書の証拠能力が無くなるわけではありません。

 実は、田中弁護団は、その「反対尋問」のための証人申請になる嘱託尋問の要請を裁判所に出したんですが、却下されました。
 この却下について不当だという人たちもいますが、そのことについて書くと長くなるので、ここでは止めておきます。
 ただ、私の個人的な感想ですが、裁判所の却下という判断は間違いではないように思いました。
 
 最後は(4)の嘱託尋問の法的根拠です。
 確かに、民事訴訟法にあるような「外国における証拠調べ」の規定(現民訴法第184条、裁判当時の旧法では第264条)が、刑訴法には明文で置かれていません。
 しかし、検察側は次の3つを組み合わせて(163条の方は準用して)根拠としました。

【刑訴法第226条】
 犯罪の捜査に欠くことのできない知識を有すると明らかに認められる者が、第223条第1項の規定による取調に対して、出頭又は供述を拒んだ場合には、第一回の公判期日前に限り、検察官は、裁判官にその者の証人尋問を請求することができる。

【刑訴法第163条第1項】
 裁判所外で証人を尋問すべきときは、合議体の構成員にこれをさせ、又は証人の現在地の地方裁判所家庭裁判所若しくは簡易裁判所の裁判官にこれを嘱託することができる。

【外国裁判所ノ嘱託ニ因ル共助法第1条ノ2】
 法律上ノ輔助ハ左ノ条件ヲ具備スル場合二於テ之ヲ為ス
    (略)
 六 嘱託裁判所所属国カ同一又ハ類似ノ事項ニ付日本ノ裁判所ノ嘱託ニ因リ法律上ノ輔助ヲ為シ得ヘキ旨ノ保証ヲ為シタルコト

 田中弁護団は、刑訴法に明文の規定がないことから嘱託尋問の妥当性を否定する主張をしていましたが、裁判所は検察側の主張を採用しました。
 このことから「明文規定がない」という主張ならありえると思いますが、「岸田コラム」のように「嘱託尋問の法的根拠がはっきりしない」というのは、裁判の中身を把握していない意見だと思います。

 以上が、「岸田コラム」が示した疑問点に対する回答です。
 やってみて感じたんですが、「岸田コラム」の岸田さんは裁判関係の資料をあまり見ていないようです。
 裁判批判派の言う事をそのまま信じてしまったんでしょうね。

 以上、katsukoさんのブログで紹介されていた「岸田コラム」さんが挙げていたロッキード裁判に関する疑問点について、簡単に説明してきました。

 最後になりますが、katsukoさんや「岸田コラム」さんのような方たちには、裁判批判派の書いたものだけでなく、立花隆のような肯定派が書いたものや裁判の判決文を併せて読むことをお勧めします。
 裁判批判派の書いたものの方が俗耳に入りやすいとは思いますが、その分、信用度は……? というのが私の感想です。

 
※ 有名人の方は原則敬称略になっています。


<2020.5.28追記>
 文中で紹介したkatsukoさんのブログは現在も運営されていますが、「岸田コラム」は「Not Found」になっています。

 

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