別館第一倉庫

本館からロッキード裁判に関するものを移設しました。

続:ロッキード裁判を振り返る(その21)『立花隆から渡部昇一への質問9』

 「れんだいこ」氏のHPを見たことがきっかけで始まったこのシリーズ。渡部昇一立花隆朝日ジャーナル誌上で直接対決した「幕間のピエロ番外」を取り上げる12回目です。
 今回から、立花隆が「番外」の第八回で渡部昇一に投げかけた44の質問のうち、質問番号が[66]から[73]までの8問を取り上げます。
 ここでも主に、刑訴法321条について尋ねています。
 
 これまでと同じく、番号で質問を表示し、その後に渡部の回答、それに対する立花側の反論があれば、それも一緒に対話形式で載せました。質問番号は通し番号になっています。また、これまで同様に立花側の発言は質問も含めて青字渡部側の発言は赤字で表示しました。
 さらに、これもこれまでと同じく、わかりやすい対話形式にするために、両者の雑誌上での発言を簡略化していることをお断りしておきます。

【立花→渡部9】
[66]ただの検事調書でも、刑訴法321条の要件を満たせば、証拠能力が認められることはご存知と思うがいかがか。

渡部「刑訴法321条については今回の裁判においてその適用に重大な疑点があるとを私は繰り返し述べている。この法律を作成された横井大三氏さえ疑念を示しているし、石島弁護士も『いかさま裁判』の典型的な例であると言っている。その条文の適用が無理だと指摘されると『しかしながら』と明文規定にない拡大解釈になっているというのである」

[67]嘱託尋問調書にしろ、ただの検事調書にしろ、刑訴法321条の要件を満たしているかどうかの厳しい吟味がなされていれば、その証拠能力に問題がないということはおわかりか。

渡部「[66]の答え、及び前回の[26]の答えを参照」

[68]本件の嘱託尋問調書に関しては、「日本の裁判史上に残るほど激しい証拠法論争と、厳しい証拠能力の吟味」があったという事実自体(評価は別として)は認められるか。

渡部「この点で弁護団が激しく異議を唱えるのは当然」

[69]渡部氏は後になって、「そのまま証拠として」とは、「反対尋問にもさらさないで」の意味であったと弁解なさっているが、刑訴法321条は「反対尋問にさらさないで」証拠能力を与える場合の要件を定めたものであることをお忘れか。

渡部「[66]の答え、及び前回の[26]及び[35]の答えを参照」

[70]「そのまま」は、「反対尋問にもさらさないで」を意味するという論は、結局のところ、刑訴法321条全否定論に行きつかざるを得ないと思われるが、渡部氏の主張はその趣旨なのか。

渡部「厳密な適用を欠き、憲法の趣旨に反する方向に拡大解釈されることが通例になるとすれば、この条項は被告の人権にとって極めて危険である。321条廃止を唱える法律家の主張も一理あると思うに至っている。しかし、今回の一審のやり方に対して高裁や最高裁の判断がまだ出ていない。注目しているところである」

[71]別のところでは、渡部氏は刑訴法を尊重し、刑訴法321条の適用のされ方が問題なのだとの主張をなさっておられるが、あなたの主張はどちらなのか。321条全否定なのか。適用の仕方がよければよいのか。

渡部「[70]の答えを参照」

[72]もう一つ間違いを指摘すれば、日本の憲法は、裁判を当事者主義で行うことなど定めてはいないということをご存知か。

渡部「憲法の精神から言えば公判中心主義は当然である。いわゆる検面調書の用いられ方が、問題の多いことは多くの法律関係者の指摘するとおり」

[73]以上の諸点を理解していただければ、『借問す』の六ヵ条の第三項については問題の立て方が間違いだらけなので正面からは答えようがないという以外にないということが渡部氏にもおわかりになると思われるがいかがか。

渡部「問題の立て方は間違っていない。立花氏は答えないための逃げ口上を言っている」


<感想>
 例によって、渡部昇一は肝心なところを横井元最高裁判事や石島弁護士に全面委任ですが、[73]についてだけ補足しておきます。
 立花隆は[68]の質問の中で、嘱託尋問調書の証拠採用にあたって「日本の裁判史上に残るほど激しい証拠法論争と、厳しい証拠能力の吟味」があったとしています。また、[72]の質問で、日本の憲法に、裁判を当事者主義で行うという定めがないことを述べています。
 これらを前提にして[73]の質問になるわけですが、ここに出てくる『『借問す』』の六ヵ条の第三項とは次のものです。

 「日本の裁判は当事者中心主義、公判中心主義であると憲法は定めている。検察が外国に出かけて取ってきた尋問調書を、そのまま証拠として採用することが憲法の精神に反することと立花氏は思われないのかどうか」

 当事者中心主義は憲法で決められていない、尋問調書はそのまま証拠採用されたのではなく激しい論争の末に採用されたなど、この渡部昇一の『借問』の前提がことごとく間違っているので答えようがないということを立花隆渡部昇一に投げかけたのがこの[73]です。 
 しかし、渡部昇一の答えは「問題の立て方は間違っていない」。
 理詰めで攻めて来ている相手にこの対応では、自分が逃げ口上を言っていると思われても仕方ないですね。

 では、今日はここまで、続きは次回にします。


※ 有名な方は基本的に敬称略になっています。

 

にほんブログ村 政治ブログ 政治評論へ
にほんブログ村