別館第一倉庫

本館からロッキード裁判に関するものを移設しました。

ロッキード裁判を振り返る(中)

 前回の続きです。今回も有名人の方は原則敬称略です。

 始まりはこのブログ記事に辿り着いたことでした。

    <ボーイングといえばロッキード事件って何だったの>

 このブログで紹介されている「岸田コラム」を読むと、ロッキード事件裁判に対する疑問として次のことを挙がっています。

(1)田中角栄が5億円を受領した物的証拠がなく、いつどこで受領したかの証拠は丸紅専務の証言だけ。

(2)総理大臣には航空会社に特定の飛行機を買わせる権限がない。

(3)アメリカ人の証人に行った嘱託尋問に対する田中角栄側の反対尋問が行われていない。

以上は番号が付いていましたが、この他に

(4)嘱託尋問を行う法的根拠がはっきりしない。

という疑問も述べています。

 しかし、これらの疑問に対する答えは、いずれも裁判を通して明らかにされています。
 そこで、それぞれの疑問について実際はどうだったのか、なるべく簡単に答えていきたいと思います。

 まず(1)の5億円受領について「いつどこで行われたか」ということですが、これは4回に分けて現金の受け渡しが行われています。

 1回目は、昭和48年8月10日午後2時20分ごろ、英国大使館裏の路上で1億円。
 2回目は、同年10月12日午後2時25分ごろ、丸紅伊藤専務自宅近くの路上で1億5千万円。
 3回目は、昭和49年1月21日午後4時15~45分ごろまでの間に、ホテルオークラ駐車場で1億2千500万円。
 4回目は、同年3月1日午前8時30分ごろ、丸紅伊藤専務自宅で1億2千500万円。
 以上で合計5億円になります。

 この授受に直接関与した者のうち、伊藤専務以外は、検察の取り調べ段階で供述した内容を法廷では否定したようですが(岸田コラムの「いつどこで受領したのかの証拠は受け渡したとする丸紅専務の証言だけ」というのは、このことを言っていると思われます)、これらについて、裁判所は、法廷でのやり取りを通じ、法廷供述より検察調書に述べられている内容の方が信用できると判断しました。
 つまり、伊藤専務以外の証言も証拠として認定されたということです。

 また、主な物的証拠としては、100万円をピーナッツ1個とした、いわゆる「ピーナッツ領収証」やクラッターが作成した「摘要」の中の特別勘定写、松岡運転手作成の社有自動車行動表などがあり、「物的証拠がない」というようなことはありません。

   次に(2)の総理大臣の職務権限ですが、これについては第一審の東京地裁の判決文の中にある総理大臣の職務権限に関する結論部分を引用しておきます。

 全日空に対しL1011型機を選定購入せしめるべく行政指導せよと運輸大臣を指揮するような行為は、内閣総理大臣たる被告人田中の職務権限に属する行為であり、自ら全日空に対し右行政指導と同じ内容の働きかけをするような行為は、職務と密接な関係を有する準職務行為であるというべく、結局、5億円は、被告人田中の職務に関し供与された賄賂であって、田中は“請託”を受けて収受したということができる。

 ここで述べられているように、「全日空が特定機種の飛行機を購入するよう行政指導しろと運輸大臣を指揮する行為」を総理大臣の職務権限に属する行為、「全日空に対し特定機種の飛行機を購入するよう自ら働きかけるような行為」を総理大臣の準職務行為であるとし、これらが刑法第197条にある「その職務に関し」という要件を満たしていると判断されました。
 「岸田コラム」にある「(職務権限の)論拠があるはずだという感じなのだ」などという曖昧なものではない、明確な根拠による認定だと思います。

 「岸田コラム」が示した疑問点は、まだ2つ残っていますが、長くなったので次回にします。


※ 有名人の方は原則敬称略になっています。


<2020.5.28追記>
 文中で紹介したkatsukoさんのブログは現在も運営されていますが、「岸田コラム」は「Not Found」になっています。

 

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