別館第一倉庫

本館からロッキード裁判に関するものを移設しました。

続:ロッキード裁判を振り返る(その25)『団藤重光元判事の発言について』

 「れんだいこ」氏のHPを見たことがきっかけで始まったこのシリーズ。
 論点とまでは言えない内容に関するやり取りについて紹介している3回目ですが、今回は、団藤重光元判事の発言を取り上げます。

 団藤重光といえば、元最高裁判事ですが、それ以前は東京大学法学部教授で刑法学者として有名な人でした。
 渡部昇一は、刑事免責、外国への尋問嘱託、最高裁宣明などを問題点とする嘱託尋問調書採用に対する批判の中で、団藤元判事がある講演で「これは本当を言うと問題がある」と発言していたことを紹介しています。

 これに対し、立花隆は団藤発言は渡部昇一が主張しているような意味でのものではないとし、次のように団藤元判事の発言部分を引用しています。

 「日本側では、検事総長から『コーチャン氏を起訴することはない』という、いわば宣誓書みたいなものをつくりこれを最高裁判所にもって来て、この通り間違いないということを証明して欲しいということでありました。これは本当を言うと問題があるのでありまして、起訴猶予にしたからといって起訴猶予処分は別に確定力を持ちませんので、後で起訴しようと思えば法律的にできるのであります」(※立花が実際に引用している部分はもっと長いのですが、ここでは要所の部分だけ抜き出しました)

 そして、このコンテクストの上で明らかなように、団藤元判事は、後から起訴猶予処分を覆して起訴することが絶対にできないという不動の処分たりえていたか否かという点において「問題がある」といっているのであり、渡部昇一が考えているような点について「問題がある」といっているのではないとし、渡部昇一の引用をイカサマだと批判しています。

 この立花隆の批判は朝日ジャーナルで連載していた『幕間ピエロ』第40回に載ったものです。掲載号は1985年8月2日号。
 ところが、同誌で渡部・立花両氏が直接対決した『幕間ピエロ番外』第9回で、渡部昇一はこう書いています。

 「免責宣明書は司法行政事務であるという説明を立花氏は本当に信じているみたいなのである。しかし裁判の内容に少しでも関係があることを司法行政事務と呼ぶことはおかしい。当時の最高裁の判事の一人であった団藤重光氏も『これは本当を言うと問題がある』と言っておられる。団藤氏の言われ方は控えめであるが、司法行政事務と言うのは無理だ、という意味にとってよいであろう」

 この渡部昇一の文章が載った『幕間ピエロ番外』第9回は朝日ジャーナル1985年10月25日号であり、立花隆に『幕間ピエロ』第40回で自分の団藤発言引用を批判されてから2ヵ月以上経っているのに、渡部昇一は、当初の同じ内容の主張を繰り返しています。
 例の「渡部昇一単純繰り返しの法則」がここでも見られたわけですが、呆れ返ったであろう立花隆は論争後の『自戦記』の中で「私はレトリックでなしに、渡部氏の頭は本当にどこかおかしいのではないかと思っている」と述べています。

 「頭がおかしい」とか「バカ」とかいった立花隆の物言いを渡部昇一はよく「人身攻撃だ」と非難していますが、私はどちらかといえば、渡部昇一にこう言いたくなる立花隆の気持ちにシンパシーを感じています。


※ 有名な方は基本的に敬称略になっています。

 

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