別館第一倉庫

本館からロッキード裁判に関するものを移設しました。

続:ロッキード裁判を振り返る(その16)『立花隆から渡部昇一への質問4』

 2日間お休みしましたが、再開します。

 さて、「れんだいこ」氏のHPを見たことがきっかけで始まったこのシリーズ。渡部昇一立花隆朝日ジャーナル誌上で直接対決した「幕間のピエロ番外」を取り上げる7回目です。
 今回は、「番外」の第六回で立花隆渡部昇一に投げかけた31の質問のうち、質問番号が[23]から[35]までの13問を取り上げます。
 この13問は、主に刑訴法321条と憲法37条に関する質問です。

 なお、これまでと同じく、番号で質問を表示し、その後に渡部の回答、それに対する立花側の反論があれば、それも一緒に対話形式で載せました。質問番号は通し番号になっています。また、これまで同様に立花側の発言は質問も含めて青字渡部側の発言は赤字で表示しました。
 さらに、これもこれまで同じく、わかりやすい対話形式にするために、両者の雑誌上での発言を簡略化していることをお断りしておきます。

【立花→渡部4】

[23]渡部氏は憲法を尊重される方と思われるがいかがか。

渡部「その通りである」

[24]然りとすれば、憲法81条の「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である」という規定も尊重なさると思うがいかがか。

渡部「その通りである」

[25]渡部氏は刑訴法を尊重なさる方だと思うがいかがか。

渡部「その通りである」

[26]刑訴法321条に、直接の証人尋問ができないときには、一定の要件のもとに、作成済みの証人尋問調書を証拠として採用してもさしつかえないとの規定があることをご存知か。

渡部「知っている。今回の裁判で、刑訴法321条の読み方が間違っていると石島弁護士が明快に述べている。またこの条文を作成した横井大三元最高裁判事も、この条項が今回の裁判のごとく読まれることに疑念を示している。加えて横井氏は『反対尋問権が保証されないまま証拠に採用された嘱託尋問調書の合・違憲性について最終的に最高裁の判断が必要となることもありうる』と言っている。元最高裁判事として極めて慎重な表現をとっておられるが、少なくとも今回の裁判の行われ方に対して、この条項の発案者であり最高権威から、重大な疑念がすでに出されていると言えよう」

[27]刑訴法321条の規定が、憲法37条2項の被告人の反対尋問権に照らして憲法違反であるとの訴えがなされたことがあるのをご存知か。

渡部「[26]に対する答えを参照」

[28]その訴えに対して、最高裁が、「憲法37条2項が、刑事被告人は、全ての証人に対して審問する機会を充分に与えられると規定しているのは、裁判所の職権により、又は当事者の請求により喚問した証人につき、反対尋問の機会を充分に与えなければならないという趣旨であって、被告人に反対尋問の機会を与えない証人、その他の者の供述を録取した書類は、絶対に証拠とすることは許されないという意味を含むものではない」との判決を下し、刑訴法321条は合憲との判断を示したことをご存知か。

渡部「[26]に対する答えを参照」

[29]同趣旨の訴えが何度か繰り返されたが、最高裁の判決はゆるがず、これが確立された判例となっていることをご存知か。

渡部「[26]に対する答えを参照」

[30]もし渡部氏が憲法を尊重なさる方なら、憲法81条にもとづいて、最高裁のこの憲法判断を尊重なさらなければならぬと思われるがいかがか。

渡部「[26]に対する答えを参照」

[31]法律を素人が自分勝手な解釈で読んでいると、ときどきとんでもない間違いを犯すことがあるのをご存知か。

渡部「素人も間違うことがあるが、専門家の誤りを専門家が直す場合はよくある(一審が上級審で逆転した場合など)。また素人の発言が専門家の支持を受けることもある。わたしが『諸君!』に角栄裁判批判を最初に出した時、元最高裁長官だった人たちは「素人が何をいうか」という趣旨の答えをなされた。しかし石島弁護士、井上九州大教授やその他の刑法学者、法曹家が素人の私の考え方の方が正しいとされている。だから素人だからダメとはならないと思う」

[32]渡部氏がわざわざ傍点をふって引用した、憲法37条の「すべての証人に対して」と「充分に与えられ」の部分の渡部氏の解釈は最高裁判例に照らして誤りであることが理解できるか。

渡部「[26]に対する答えを参照」

[33]「すべての証人」とは、法廷に喚問されたすべての証人を意味しているのだということがおわかりか。

渡部「これは証言を証拠として採用された証人のことである」

[34]「充分に与えられ」については、かって私が『大反論』において、「憲法37条が『不可侵性』を主張していないということは、ちょっと法律の知識がある人には、すぐにわかります。それに『充分に』という表現を用いていることです。法律というのは用語法が厳密で、『不可侵性』を主張する場合には、こういう曖昧な表現は用いず、『いかなる場合にも…できる』とか、『絶対に…禁ずる』といった疑問の余地がない表現を用いるものなんです」との説明を加えたが、これが法律の法文解釈の常識であることがおわかりか。

渡部「その通りだと思う」

[35]以上を要するに、渡部氏の「そうすると、簡単に言って、ロッキード裁判の第一審は、憲法の明快な規定を無視して進められた裁判である」という結論は全くの誤りということになると思われるがいかがか。

渡部「この場合は刑訴法の厳密な適用によらねばならず、憲法の趣旨に反する方向に拡大解釈されては絶対にいけない。第一審はこの点において重大な疑念を起こさせる。なお[26]に対する答えを参照」


<感想>
 ここでも渡部昇一は途中から「[26]の答えを参照」で、ずっと押し通しています。では、その[26]には「石島弁護士がこう言っている、横井元最高裁判事がこう言っている」と書いてあるだけで、ある意味、全面委任。お二方とも法律のプロでしょうが、具体論を全部そちら任せというのは、どうかと思いますね。渡部昇一先生御自身が「素人は黙っておれ」という言葉に腹を立て、素人の言うことも正しいものがあると自信を持っていただけに、こんな時だけプロの言う事を全面的に持ち出してくるのは妙な気がします。。
 少なくとも、立花隆からの質問[3]への回答で「一審判決の一方的解説はあっても、立花氏の意見は少しも明らかでない」と言った人の態度だとは思えません。

 今日はここまで、続きは次回にします。


※ 有名な方は基本的に敬称略になっています。

 

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