別館第一倉庫

本館からロッキード裁判に関するものを移設しました。

続:ロッキード裁判を振り返る(その5)『論点3:嘱託尋問に対する反対尋問について』

 「れんだいこ」氏のHPを見たことがきっかけで始まった、渡部・立花論争内容をわかりやすく対話形式に直してお送りするシリーズ。今日は「論点3:嘱託尋問に対する反対尋問について」です。
 これまで同様、区別しやすいように渡部発言を赤字立花発言を青字にしました。また、わかりやすい対話形式にするために、両者の雑誌上での発言を簡略化していることをお断りしておきます。

[論点3] 嘱託尋問に対する反対尋問について

渡部「田中被告は、ただの一度も最重要証人に反対尋問する機会を与えらることなく有罪を宣せられた。反対尋問を許さない外国人の証言を採用して有罪判決を下していいのか」

立花「渡部氏は『田中角栄はただの一度も最重要証人に反対尋問を与えられることなく有罪を宣せられた』と言っているが、コーチャンやクラッターは田中裁判においては最重要証人とはいえない。この裁判での最重要証人は、丸紅三被告とか榎本敏夫とかである。コーチャン、クラッター以外の検察側証人に対して、被告側の徹底的な反対尋問がなされている」

渡部「田中被告側は反対尋問の請求を東京地裁に出したが却下された。その理由は必要がないからだという。田中被告が対決を怖れて反対尋問をやることをビビッたなどという声もあるが、全く根拠のない悪質なデマである」

立花「反対尋問のための証人尋問を本気で請求するなら、尋問する側が証人と話をつけるなどの準備をととのえるのが原則である。実際、田中側が本気で請求した証人については、すべてそうしている。ところが、コーチャン、クラッターについては請求しただけで、第一審の田中弁護団は何のアクションも起こさなかった。二人に証人になってくれるかどうかの問い合わせすらしていない。だから、検察側から、証人を申請しただけで何もせず漫然と時を過ごしているだけでは、とても本気とは思えないと、公判廷で非難されたのである。さらに、田中側が本気だったら、裁判所の却下決定が出た後で、最高裁に特別抗告する手が残されていたのに、何もしなかった。このように、やる気ゼロだったことは誰が見ても明らかだった」

渡部「立花氏の『ロッキード裁判傍聴記』既刊分の中に、田中の反対尋問請求が却下されたことへの言及がない。立花氏が反対尋問却下について疑問を持たなかったのはお粗末である」

立花「既刊の『ロッキード裁判傍聴記』に反対尋問却下に関する記載がないのは、却下される前の期間までしか取り扱っていないからである。なお、田中側が反対尋問を請求するといいながら結局しなかったことは既刊の第二巻に書いてある」

渡部「反対尋問却下について既刊の『傍聴記』は時期がそこまで至ってないので載っていないが、雑誌連載はその時期に至っているのに記載がない。『俗論を排す』でも言及がない。私が取り上げるまで、この意義を認識していなかったのではないか。反対尋問にさらされていないような証拠は、検事が参考として読むのはよいが、法廷で証拠として使う筋合いのものではない」

立花「渡部氏は、朝日ジャーナル誌上に裁判報告が出ており、その『傍聴記』には反対尋問の請求については言及があるものの、却下については、依然として『最も肝腎な点に対して、言及が全くない』と言えるとしているが、これが第三巻までに載っていないとしてデマゴーグ呼ばわりしたことに対する弁解にはなっていない。ちなみに、請求と却下については『大反論』に詳しく書いてあるし、近刊の第四巻でも述べている。ただ、これは渡部氏が言うような『最も肝腎な点』ではない」

渡部「反対尋問却下については、立花氏の『俗論を排す』でも言及がない。私が取り上げるまで、この意義を認識していなかったのではないか」

立花「反対尋問云々が俗論になるのは、渡部氏が『暗黒裁判論』で取り上げた以降であるが、『俗論を排す』はその前に書かれているのだから、載っていないのは当然だ」

渡部「立花氏は、今回の反対尋問権に対する態度を正しいとするのか。また、刑事訴訟法の例外条項の読み方としては無理があると石島弁護士や小堀教授が述べているが、その読み方を不可とするなら理由を教えてほしい。反対尋問を保証しない状況を怖いと思わないか」

立花「反対尋問については朝日ジャーナルのこれまでの連載の中で渡部氏の議論の誤りを指摘し、『この問題については精緻な議論が必要なので、石島弁護士のところにいったところで、まとめて論じる』と予告している。それまで待ってくれとしか言えない」

渡部「弁護側に反対尋問させなければならない。それがないのは言い放しで、三文の証言価値もない。刑事免責は最高裁が是とした以上、それを可能とする刑訴法の運用もありえたかもしれないが、そのようにして得られた調書を刑訴法321条1項3号の書面として採用し、しかも弁護側の反対尋問を却下している点だけは理解に苦しむ。刑事被告人は全証人に十分に反対尋問できるとは憲法が保証する重大な人権だが、それを裁判所が却下するとはでたらめである」

 

<感想>
 この論争の中で、渡部昇一が一番熱心に主張し続けたのが「反対尋問がなされていない」という点です。
 反対尋問については、前に「岸田コラム」を取り上げた時に、項を設けて簡単に説明しましたが、あの時、「この却下について不当だという人たちもいますが、そのことについて書くと長くなるので、ここでは止めておきます」と書きました。その不当だと主張している筆頭が渡部昇一です。

 反対尋問のない尋問調書については、反対尋問を受けてなくても、刑訴法321条の要件を満たしていれば証拠能力が認められるんですが、これについて、渡部昇一は繰り返し「反対尋問にさらされていない尋問調書を証拠にするのは違憲だ」と主張しています。「刑訴法321条の示す要件を満たせば…」という声に耳を傾けません。

 相手がどう反論してこようが、それに関係なく、同じ主張を繰り返すだけ。前回の時に、そのような事を書きましたが、今回も同じです。

 上の対話形式の最後の渡部昇一の発言ですが、これは「その2:論点整理」に載せた渡部・立花発言状況一覧の中の、(13)「死に救われた」と(14)「土俵に出てこい」の二つをもとに構成しました。(13)については前々回の<感想>で述べたように、一連の論争の8年後に発表された文章で、(14)の方は更にそれから18年後、一連の論争の26年後に発表されたものです。 
 一連の論争の中で、渡部昇一の掲げた反対尋問に関する裁判批判に対し立花隆は反論していますが、そうした経緯を全く踏まえず、渡部昇一は論争当初と同じ内容の批判を投げかけています。
 なお、立花隆は田中側が本気でなかった理由として、証人へのアプローチをしていなかったことと却下後に最高裁への特別抗告をしなかったことを挙げていますが、その他、裁判引き伸ばしの方策のひとつとして証人喚問を請求したと見られる点があることも、却下の理由だったようです。
 
 今日は本当に長くなってしまいました。続きは次回にします。

※ 有名な方は基本的に敬称略になっています。
 また、今回の内容は、「その2、論点整理」で紹介した渡部・立花両氏の発言媒体のうち、(3)渡部「七ヵ条」、(6)立花「大反論」、(8)渡部「異議あり」、(9)立花「幕間ピエロ」、(10)渡部「借問す」、(14)渡部「土俵に出てこい」をもとに構成しました。
 

 

 

にほんブログ村 政治ブログ 政治評論へ
にほんブログ村