別館第一倉庫

本館からロッキード裁判に関するものを移設しました。

続:ロッキード裁判を振り返る(その3)『論点1:五億円の収受について』

 「れんだいこ」氏のHPを見たことがきっかけで、今回から、ロッキード裁判に関する渡部・立花論争で、どういう意見の応酬があったかを見ていきます。

 私は専門的な法律の勉強はしたことはありません。したがって、裁判の内容について、とやかく言う資格はないと自覚しています。 
 あくまで渡部昇一立花隆という二人の論争の経緯を見ていくことに主眼を置いているので、もし法律面で私の書き方におかしな所があったら教えてください。

 渡部・立花二人の発言の出典はいずれも前回の記事に載せた「文藝春秋」「諸君!」「朝日ジャーナル」などに掲載されたものです。
 雑誌での応酬は、どちらかが複数の論点について意見を述べると、もう一方が1~数か月後に発行された雑誌で各論点について反論を述べるといった形を取っていますが、ここでは、それを、論点ごとに両者が討論したように対話形式に直してあります。区別しやすいように渡部発言を赤字立花発言を青字にしました。
 なお、わかりやすい対話形式にするために、両者の雑誌上での発言を一部簡略化していることをお断りしておきます。

 では、まず論点1からです。

[論点1]五億円の収受について

渡部「五億円が裁判で問題にされたのを聞いたことがない。五億円の札束は相当の量である。その札束を見た人が一人もいない。それこそ20キロの重さのダンボールで何個かになるらしいが、ダンボールに詰めた人も法廷に出てこないし、見た人もいない。誰がダンボールに詰めたか、銀行に誰が頼んだか、何銀行なのかもわからない」

立花「5億円の札束の量と重さは法廷で調べ済みだ。運んだ丸紅社員を証人として呼んでダンボール箱の大きさ、重さの記憶に近いものを証言させている。その他の点も、クラッターの証言で明らかになっている」

渡部「立花氏はクラッター証言を引用しているが、彼は免責を受け反対尋問も受けてない“言いっ放し”の証言である。それを証拠として採用するのはおかしいというのが私の出発点である」

立花「渡部氏は出発点において、クラッター証言は証拠能力がないから排除せよなどということを主張していただろうか。渡部氏は五億円の現金授受が『問題にされたことはほとんど聞いたことがない』という、全くトンチンカンな事実認識から出発して、それはクラッターに反対尋問がなされなかったためであるとした。渡部氏がクラッターにこういうことを聞けばこういうことが明らかになったはずと空想的推理を繰り広げていくので、そんなことは皆クラッターにとっくに尋問されて明らかになっていると指摘したら、今度は、クラッター証言を証拠排除してしまえと言い出した。全くの御都合主義である」

渡部「田中角栄が五億円を受け取ったかどうかは、検察当局と田中側にしか言う資格がないと思っている」


<感想>
 後の論点でも出てくるでしょうが、渡部昇一は、一貫してクラッター証言が載っている嘱託尋問調書を「裁判官は見ても読んでもいけない」と述べています。
 しかし、それをを五億円の事を問題にした時に断ってなかったので、その点を立花隆に指摘され行き詰ってしまいました。
 最後の渡部の「検察当局と田中側にしか言う資格がないと思っている」というのは、一連の論争から8年ほど経って発表された「『田中角栄の死』に救われた最高裁」(諸君!1994年2月号)に載っているんですが、自分から「五億円が裁判で問題にされたのを聞いたことがない」といって疑問を提示した人が論争の最後に発した言葉だとすると、白旗を掲げたんだろうなと思います。

 では、長くなったので、今日はここまでにしておきます。


※ 有名な方は基本的に敬称略です。
 また、今回の内容は、「その2、論点整理」で紹介した渡部・立花両氏の発言媒体のうち、(2)渡部「暗黒裁判論」、(8)渡部「異議あり」、(9)立花「幕間ピエロ」、(10)渡部「借問す」、(12)渡部・立花「幕間ピエロ番外」、(13)渡部「死に救われた」をもとに構成しました。
 

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